電気は気に入らない人物を殴る棍棒ではありません

 小泉進次郎環境大臣が「石炭を減らしていきたい」とインタビューで答えて炎上しているそうですが、原発も石炭も嫌だでなんで発電するのかとか最新鋭の発電所は環境に良いのにとかいう意見が目立つのですが、これ進次郎の個人的な思いじゃなく環境省の省益に沿った発言なのです。

 そもそも論として環境省は、最新鋭だろうがヘチマだろうが石炭火力に否定的で、石炭火力を推進したい経産省と対立関係にあります。実際処理水を海に流したいと発言して称揚された
原田前環境大臣も「環境大臣の立場としては」石炭火力に否定的で、「厳しい姿勢で臨む」としています。

 原田氏には、所轄外とエクスキューズしたとはいえ止めるときになってこういう発言を言うのはいかがな物かと思いますし、言ったからには福岡5区選出とはいえ、一議員としてフリーハンドの立場の強みを生かして何かアクションしないと無意味だろうと思いますが、それは置いておいて。

石炭火力発電がそもそもどのくらいあってどのくらい建設されている物なのか。石炭火力に反対の市民団体のサイトからの引用で申し訳ありませんが、現在運転中の石炭火力発電所は4341.6万kWに対し、新規計画は2133万Kwなので49%増となる大幅な増大が計画されていました。

 その多くは老朽化した原発の代わりと言うよりも東電の市場を奪うために商社・石油会社と60Hz圏の電力会社によって計画された首都圏用の電源で、中には東京から遠く離れた秋田に発電所を設ける計画もあります。

 電力の小売というのは自前の発電所がないと儲からないビジネスなので、一番安い電源に向かうのは自明の理なのですが、仮にこれが全て建設されると電力市場が崩壊しかねないくらい急激に増える量です。

そうしたこともあり、環境省は新設反対に回ったのですが2016年には

  • 火力発電の効率に数値目標を設定、効率の悪い設備は休廃止
  • 再生可能エネルギー原発を合わせた非化石電源の利用を合計で原則44%以上にするよう電力会社に求める
  • 発電所のCO2排出量などの情報の開示
  • 電力業界は削減計画を誠実に実行

という厳しい条件付きで建設是認に傾きました。

しかし、パリ協定を境に再び環境省は態度を硬化させていき、さらには石炭プロジェクトへの融資が海外の株主から批判されることを恐れた邦銀や商社が融資やプロジェクトからの撤退を表明し出します。発電所というのは10年掛けて建設し、3~40年掛けて資金を回収する息の長い事業にも関わらず、数年で態度を二転三転させる国の姿勢について行けなくなったのか、上のリンクをみるとおわかりの通り、建設中止が目立ち始めます。

以上のように、進次郎は少なくとも環境大臣として環境省の方針に従った発言をしたまでです。

ですから、おかしいのは進次郎ではなく環境省であって、国です。

もう一度言います。おかしいのは国です。

ハッキリとしたリーダーシップとビジョンを示していない歪みはいつか大きなつけとなって国民に跳ね返ってくるでしょう。

さて、話は変わりますが同じく電力絡みで房総半島の停電で、自由化で設備投資を怠ったことが原因と批判する声が左右から聞こえてきますが、そもそもどの程度の風力に耐えられるのか丁度1年前に東京電力に取材した記事が残っていました。

weathernews.jp

 

「電柱の倒壊防止については、経済産業省の『電気設備に関する技術基準を定める省令』に、風速40m/sまで耐えられるようにつくることが定められています。当社はより安全を考慮して、省令で定める風速を超過しても倒壊することのないよう、設備構築を実施しています」(東京電力総務・広報グループ)

「風速40m/s以下でも、倒れた樹木の巻き添いになったり、大型車に衝突されたり、あるいは重量物が飛んできてぶつかれば電柱は折れたり倒れることがあります。しかし、当社管内において暴風などの風が直接の原因で電柱が損壊した事例はありません」(同)

仮に設備投資を怠ったから倒れたというなら、老朽化した電柱が風速40m/sを遙かに下回る風速で多数倒壊しているか、安全係数を40m/sギリギリまで落した原発事故後に立てられた電柱が倒れていないとおかしいことになります。当時の瞬間最大風速は千葉市で57.5m/sと最低の基準を超えていることになります。

安全率がどのくらいかは解りませんが、1.5倍の安全率なら風速60m/sが限度で、まさに「設計通りに耐えて設計通りに倒れた」ことになります。さらに言えばリンク先にあるとおり電柱が耐えられても電線に木やトタンが引っかかれば電柱は倒れます。

障害物が原因で倒れた電柱と、風に耐えきれなくなった電柱の割合がどのくらいの割合なのかなど今後の検証がないと解らないことが多い中で不確定要素を断定する行為は、復旧行為の妨げですらあります。

 例えば、仮に木々が倒れて停電に至ったケースが多いとすればそれは里山を放置した自治体の責任ですし、台風対策の最適解は電柱地中化であり、これは電力会社の事業ではなく自治体が行う公共事業であり、停電被害の拡大に関する自治体の責任は少ない物ではないのではないでしょうか?

もっとも被災地の南房総なんて下水の整備すら進んでない状況で地中化は一番立ち後れる地区になるのでしょうが・・・。

こうしてみてみると、皆さん本当は電気について興味は無いんじゃ無いですかと言いたくなるんですよ。自分たちの気に入らない人物や世の中の風潮を殴る棍棒として電力会社や電力システムを使ってるに過ぎないのではないかと。

同じインフラ系でも鉄道マニアというのはしばしば部品を盗んだり、写真撮影の為に木を切り倒したり、迷惑極まりない存在ですが、一つだけ利点があるとすれば興味を持って能動的にニュースを集め、体系的かつ最新の知識があることです。

他方、電力関係は原発容認派も反対派も数年前の古い知識を未だに振りかざす人のなんと多いこと。おそらく本当にまともに知識のある人は守秘義務がある立場だからSNS似書き込めないが故にさらに偏見に悪循環となっているように思います。