そもそも何故小林賢太郎氏が開会式を担当することになったのか


タイトルの通りですが、なぜ開会式が混乱するようになったのか時系列でまとめてみましょう。
開会式のクリエーターの話が出たのはリオの1年後の2017年12月。

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東京都内で理事会を開き、両大会開閉会式のプランを作成する「4式典総合プランニングチーム」の設置を決めた。映画「君の名は。」をプロデュースした川村元気氏(38)や狂言師野村萬斎(51)らメンバーは8人。基本プランを来年夏までにまとめ、これを受けて各式典監督の選定が行われる。

4式典を「起・承・転・結」で構成。この日、理事会で承認された全体のコンセプトは「平和」「共生」「復興」「未来」「日本・東京」「アスリート」「参画」「ワクワク感・ドキドキ感」。これをもとに4部作が構成される。

「基本プランを来年夏までにまとめ、これを受けて各式典監督の選定が行われる」とあるのですから、普通に考えたらコンペをやるはずなのですが、その翌年7月にはこういう発表がありました。

 

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8人は2017年12月から式典コンセプト検討メンバー。大会組織委員会は8人の検討内容を評価し、横滑りで演出を担うことになった。総監督は置かずにチーム制で検討する。組織委の御手洗冨士夫名誉会長は記者会見で「具体的な演出の検討にそれぞれが秀でた力を持った人ばかり」と期待を込めた。

4つの式典を総合統括するのは狂言師野村萬斎さん。人間国宝の祖父・故六世野村万蔵と父・万作に師事。映画「陰陽師」で主演を果たし、NHKEテレの子供向け番組「にほんごであそぼ」にレギュラー出演するなど、伝統芸能の枠にとどまらない多方面で才能を発揮してきた。

楽家椎名林檎さんや人気女性グループ「Perfume」の振り付けを担当するMIKIKOさんらは、2016年リオデジャネイロ五輪の閉会式でも企画演出を担当。「五輪旗」が引き継がれる場面で、「マリオ」にふんした安倍晋三首相を登場させ、コンピューターグラフィックス(CG)を駆使したショーで世界の人々の心をつかんだ。

翌年の7月にオリパラの式典はチーム制で置くということが決まりました。メンバーは、総合統括野村萬斎氏・五輪統括山崎貴氏・パラリンピック統括佐々木宏氏、総合チームとして川村元気氏・栗栖良依氏・椎名林檎氏・菅野薫氏・MIKIKO氏でした。そのうち好評を博した2016年のフラッグハンドオーバーセレモニー*1を担当したのは佐々木宏MIKIKO椎名林檎・菅野薫の各氏。

で、問題は総監督を置かないという点です。普通の会議でも纏らないのに、トップクリエーターというのは個性も自己主張が強いのに、何故かリーダー役を置かなかった。

実際、後にチームが解散するときに「チーム内の意思疎通が取れなかった」とか、「とっぴょうしもないアイディアばかり出して森喜朗氏から批判された」などといった話が漏れ聞こえてきますし、リーダーを置かないのは大きな失敗でした。

まあ、その当時の世間の空気なんて「日本の有名人なら日本でしか受けないガラパゴスなんだから呼べば国辱」「国内では無名でも世界で知名度がある人を呼べ」みたいな感じだったので、みな遠慮していたのでしょうが、思えばこれが躓きの始めだったのでしょう。

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東京2020組織委員会は、東京2020パラリンピック競技大会の開会式・閉会式の演出家を発表。2020年1月10日(金)まで、東京2020パラリンピック競技大会の開会式・閉会式に出演するパラエンターテイナーの募集を開始した。

「ライバルは「オリンピック」開閉会式。パラリンピックをなんとしても盛り上げたい」というパラリンピック担当エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 佐々木宏氏。「パラリンピック開閉会式」の最終ステージ演出を、開会式では現代演劇界を代表する鬼才ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏と、閉会式では劇作家・演出家・パフォーマーとして知られる小林賢太郎氏とタッグを組んで臨むことになった。

この記者会見に登場して二人を紹介したのが佐々木宏氏です。まあ、パラリンピックのクリエーターなので解るのですが、おそらくこの時点でオリパラの4式典を「起・承・転・結」でまとめるというコンセプトも消えたのでしょう。

そして、雲行きが怪しくなるのはコロナ禍です。

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 東京2020組織委員会が、2018年に選出した東京オリンピックパラリンピックの開閉会式の演出企画チームを解散すると発表した。

 2018年に発表した演出企画チームは、チーフエグゼクティブクリエイティブディレクターを狂言師野村萬斎が担当。歌手の椎名林檎や振付師のMIKIKO、映画プロデューサーで小説家の川村元気、クリエイティブプロデューサーの栗栖良依、クリエイティブディレクターの佐々木宏と菅野薫、映画監督の山崎貴ら計8人のメンバーで構成される。

 東京2020組織委員会の発表によると、コロナ禍による社会状況の変化や簡素化などの観点から再構築を進めており、迅速かつ効率的に準備を進めるためチームを解散するという。新たに佐々木氏を4式典の総合企画・エグゼクティブクリエイティブディレクターに起用し、全ての演出の見直しを図る。

本来はパラリンピックの佐々木氏が陣頭指揮を執ることになりました。
更に雲行きが怪しくなったのは2021年3月

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 3月25日に聖火リレーのスタートを控える東京五輪。その開会式の責任者が、出演予定者の渡辺直美をブタとして演じさせるプランを提案し、関係者から批判を受けて撤回に追い込まれていたことが、「週刊文春」の取材でわかった。一連のやり取りを示すLINEを入手した。

 このことが世論の猛批判を浴びて佐々木氏は辞職しますが、ブタとして演じさせる演出をごり押しして止められないというのなら解るのですが、撤回した話を蒸し返されるというのはまるで後の小林氏の解任劇を彷彿とさせますし、身内のLINEからというのはかなりの側近からリークしたわけで、相当にのっぴきならない事情があったと推測されます。


 文春はこの話題で続報を続け、4月8日号にはMIKIKO氏の開会式プランを文春がリークします。2020年4月に提出されたものでIOCの評価も高かったとされています。

 で、おかしいのはこの情報の入手先です。普通なら秘密保持契約を結ぶはずで、5chに匿名でリークするというならまだしも、マスコミが全てのページを入手すると言うことはあってはなりません。入手先は書いていませんが、文春の記事はMIKIKO氏視点で書かれたものも多く、MIKIKO氏本人かその側近という可能性が強いのです。

となれば、MIKIKO氏は信頼を失うはずなのですが、リーク者はそれをあえてやったのです。もはやそうしても誰も咎めないほど五輪はヤバいという認識がクリエイティブの現場では定説になっていたのかも知れません。

 噂ではMIKIKO氏のアイディアを佐々木氏が丸パクリして功績を横取りしたいのだという話があります。真偽は知りませんが、もしそうなら済んだ話をMIKIKO氏サイドがリークするというのは大きく納得がいきます。そうなら、NDAを結んだとしても落ち度があるので訴えられなかったのかも知れません。

 そして、開催1週間前にやっとこさクリエーターが発表になりますが、このメンバーの人選はどういう経緯なのかというと、

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残ったメンバーが仲間を誘って20人ほどのチームができた。関係者によると、今回解任された小林賢太郎氏が中心になって人選を進め、その中に小山田*2氏が入っていたという。組織委は結成後に報告を受け、そのまま任命したという。

 お友達人選というのはこうなった以上は、大きく批判されるでしょうが、3ヶ月で1から作らないといけないというならやむを得ない選択でしょう。そもそも国家的なイベントを3ヶ月でどうにかすること自体がおかしいのですが。

 こう、時系列をまとめてみると「クリエーターを尊重するというカルチャー」が組織委員会に本当に存在したのか?と疑いたくなります。開会式をメチャクチャにしたいとかクリエーターに傷を付けたいと怨念を持っている人が関わっているとすら思いたくなりますし、あまり褒められたものではない、日本のクリエイティブの現場の標準ラインのガバナンスすら達成していないのではないかと言わざるを得ません。

 言ってしまえば火中の栗を拾った小林氏や小山田氏を五輪に関わらせてしまったばかりにそのキャリアを終わらせかねない致命傷を負わせたのは大いに問題ですし、離脱した椎名林檎氏なども「ヤバいから逃げ出した」と言っても誰も攻めらられるものではありません。

 もっとも小山田氏の場合はそれ以前の話で全く擁護できないのですが、いずれにしてもクリエイティブを全く知らない素人が出しゃばっているような印象を受けます。

 広告代理店は日本の影の支配者みたいに言われていますが、大抵はクライアントを受けて仕事をするいわば下請けの立場なので、上がクリエイティブを尊重しないでコロコロ言うこと変えるなら、代理店もそうせざるをえません。こうなった原因は特定の個人の黒幕が居るというよりも、世論を含めステークホルダーが余りに多すぎて、口出しをする人間が余りに大勢居て船が山に登ってしまったのでしょう。

 結果論ではありますが、初期の段階から4式典の開会式の絵コンテを提出させた上でコンペをやって、当選者に全ての責任と権限を集中させるべきだったと思いますが、日本映画は予算の都合上コンテなんて描かないので名のある映画監督でもコンテを切れない人も居るのかも知れないのでそうした手法は取れなかったのかも知れません。

 せめて、組織委員会に心があればこの後のパラリンピックの式典は関わった人物を全て匿名にすべきで、終わった後も数年間公表すべきではないと思います。それがパラリンピックとクリエーターを守る最善手だと強く思います。

 

*1:いわゆる安倍マリオ

*2:小山田圭吾氏。ミュージシャン。過去に同級生や障害者をいじめた経験を雑誌で語っていたことを受けて辞任