石油は競争力を失ったエネルギーとなった
原油価格は1バレル当たり40ドル代後半から50ドル代前半をここしばらくは推移している。新興国のモータリゼーションで無尽蔵に石油の需要は増大するかのような喧伝が一時はなされ、石油供給のピークが起こると喧伝されていたが果たしてそうだったのか検証したい。
起こったのは供給ではなく需要のピーク
実は久保田宏東京工業大学名誉教授がエネルギー経済統計データを引用したグラフによれば原油価格が暴騰し始めた2005年以後は伸びが鈍化し、近年は減少にこそ至ってないが石油消費量はほぼ横ばいという状況なのである。実は起こったのは供給ではなく需要のピークだったのだ。
それに対し旺盛な伸びを示しているのは天然ガスと石炭で、中でも石炭は温暖化対策もなんのそのの伸びっぷりである。
これらの要因により、2010年度の1次エネルギーのシェアは石油が32.3%、石炭27%、天然ガス21%、原子力5.7%の順になった。既に石油化学用の原料を除けば石炭がトップとなっているという見方もある。つまりエネルギはー石炭から石油にもどり再び石炭に回帰しつつあるのである。
競争力を喪失したエネルギー
石油はこの10年間で実需を考慮しない乱高下ぶりで、価格が安定しないエネルギーというイメージが定着している。これは経済性が何より重視されるエネルギーにとって致命的なことではないか。例えば、この冬は灯油の値段が下がったから「石油ストーブが売れた」とか「灯油が売れた」という話は全く見られなかったし、電気代が値上げしているさっこんではオール電化離れが起こっているが、電気と値段がほぼ変わらないにもかかわらずガスが選択されてる傾向があり、石油はエネルギー間の競争で競争力を失っていると言わざるを得ない。
今は替えが効かないが・・・。
確かに石油には自動車と航空機という替えの効かない需要はあるが、しかしそれらの需要は原油価格の高騰に対抗するべく省エネ技術の開発を進めており、例えば車を平均10年乗り換えるとして燃費が10年間で平均25%減少しているとしたら、それだけでも年間2.5%ずつ減る計算となっている。
また、水素自動車の燃料の水素も当初は従来型の化石燃料由来の水素であろうが、水素は電気と同じ二次エネルギーで有り、褐炭・自然エネルギー・高温ガス炉など多彩な水素供給源との競争が起こることは間違いないし、従来型の化石燃料相手でも天然ガスや石炭との競争が待っているのである。
新興国も老いていく現実
更に言えば中国の成長も人口オーナス社会への転落が今年にも起こると言われており、さらに先進国が金融緩和により自国通貨安に誘導する政策を採っているが、これは製造業にとっては自国生産に回帰するインセンティブになる。しかし、その先進国は既に高効率体質となっている上に、車も増える見通しが立たない。インドやインドネシア、果てはアフリカなどを対象に「ワンモアチャイナ」を目論む声もあるだろうが、それぞれの国は経済発展を阻害する固有の深刻な問題を抱えており、一筋縄ではいかない。
産油国・新興国初の経済危機に注視を
しかし、我が国は現在通貨安と原油安で経済成長を歩めているが、それは逆に言えば、新興国と産油国の経済情勢は火の車である言うことである。サウジアラビアは自らの権力維持のために多数の金を国民にばらまいていると言われるし、中国も常に経済を成長させる自転車操業でないと政権維持は困難であると考えられている。これらの国から経済危機が起これば現在の前提条件はすぐに崩れる。極度におびえる必要はないにしろ頭の隅に置いておいても損は無いだろう。