鳩山政権と同じ道を辿りつつある日本のエネルギー政策

 東日本大震災による原発の停止後、各地で建設計画が相次いでいる石炭火力発電所が運転を始めると、二酸化炭素(CO2の排出量が2030年ごろには少なくとも年間7100万~8900万トン増加することが朝日新聞の試算で分かった。日本全体の温室効果ガスの年間排出量を約5~6%押し上げる量で、地球温暖化防止の努力を帳消しにしかねない。

 電力会社の電力供給計画や報道発表、環境省が公開している小規模火力発電所の建設計画などを元に調べたところ、今後15年間で新設されたり、置き換わったりする石炭火力は、少なくとも32基1637万キロワットに上る。うち11基は11・25万キロワット未満の小規模なもので、法律による環境影響評価の対象とならない。

 石炭は安くて資源量も豊富だが、発電の際に出るCO2排出量が、ほかに比べて膨大だ。1キロワット時あたり平均886グラム、最新鋭の施設でも約710グラムと、石油の約1・3倍、天然ガスの約2倍となっている。

 設備利用率を東日本大震災前後の74~76%と仮定し、現状の石炭火力発電所並みの排出量の場合と、実証中の高効率の石炭ガス化複合発電をすべてで導入した場合を試算。すると、計画通り稼働した場合、CO2排出量は15年後に年間約7160万~8940万トン増加すると出た。今後15年間で運転開始から50年を経過する発電所がすべて廃止されると見込んでも4600万~6400万トン増加する。

 日本が京都議定書の第1約束期間(08~12年)の5年間で減らした温室効果ガスの量は年平均約1億500万トンだが、石炭火力で増える見込みの排出量は、その7~9割にあたる。

 LEDやヒートポンプなど高効率な省エネ機器の普及で削減された排出量年間500万トンの14~18倍。国連気候変動に関する政府間パネルIPCC)の報告書では、気温上昇を工業化前から2度以内に抑えるという国際目標を達成させる場合に、CO21トンあたり100ドルの削減費用がかかるとしており、8千万トン減らすには、毎年80億ドル(約9600億円)かかる計算だ。

 米国は13年に、事実上、二酸化炭素の回収・貯留技術(CCS)を導入しなければ、新設できない排出基準を提案。英国やカナダも同様の排出基準の施行を予定している。年末に開かれる温暖化対策の新しい枠組みを決める国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)以降は、温室効果ガスの排出に制限をかける動きがさらに強まることが予想される。

 石炭火力の増加を受けて、経済産業省環境省は13年4月に、電力業界全体にCO2を削減する自主的な枠組み作りを促す方針を決定。全国10電力で作る電気事業連合会(会長・八木誠関西電力社長)と新規参入の電力会社19社は今月、検討を始めることを明らかにしたが、電力自由化発送電分離を控え、とりまとめは難航すると見られる。

 政府は、石炭火力がどれだけ増えて、CO2排出量がどれほどになるかの見通しについて明らかにしていない。国の温室効果ガス削減目標を決める合同会合でデータの開示を求められた資源エネルギー庁の担当者は「石炭火力ができても、施設間の競争が起きて勝者と敗者ができる。示すことは難しい」と話した。(香取啓介)

だから言わんこっちゃ無い。原発を拒絶しておいて向かう先のは、もっともコストの安く炭素税などのペナルティがない石炭しかあり得ません。今の石炭市場は低迷を見せておりますが、石炭火力へのペナルティをとる国が増えたらますます石炭の需要が減り、石炭のコストが安くなり、石炭火力が増える悪循環となる可能性すら有るでしょう。

それに対して「施設間の競争が起きて勝者と敗者ができる。示すことは難しい」という答はこの事実に対し見て見ぬふりをしているとしか言わざるを追えません。

CO2排出の4割をしめる中国や米国がそれほど熱心ではないのに、石炭火力を増やすEUや日本ほどCO2削減に熱心という事実は、「偽善者は素晴らしい約束をする、約束を守る気がないからである」という名言を体現しているでしょう。

さて、こうした日本の動きを尻目にオーストラリアは大変に現実的な選択をしております。

 オーストラリアが推進していた再生可能エネルギー政策が、2年前の政権交代で百八十度転換し、先行き不透明になっている。「石炭派」のアボット首相のもと、温室効果ガスの削減目標の下方修正は必至。風力などの大型プロジェクトで投資引き揚げも相次ぐ。

 首都キャンベラの連邦議会から約60キロ。眼下に牧場が広がる丘で、強い風を受けて3枚羽根のタービン67基が回っていた。風力タービンメーカーの豪州センビオン社が2009年に操業を始めた最大出力13万キロワットの風力発電施設だ。

 「クリーンエネルギーの普及で地球温暖化を止めようと努めてきたのに、今になって汚れたエネルギー支持へ政策を変えるなんて、時代に逆行している。先が見えない中で投資家は離れ、企業も次々に撤退している」。同社のクリス・ジャド最高経営責任者(CEO)は表情を曇らせた。

 2年前の総選挙でアボット首相率いる保守連合が政権に就いて以来、豪州の再生エネルギー政策は一変した。政権は、温室効果ガスの削減目標設定や炭素税の導入など、「二酸化炭素嫌い」だった前労働党政権の路線を転換。各種のクリーンエネルギー政策を相次いで廃止し、気候変動関連組織の解体にも動いた。

 昨年には、再生エネによる発電を「20年までに全発電量の20%か、年間410億キロワット時にする」などと掲げた「再生エネルギー目標(RET)」の見直しも表明。正式な数値はまだ提示されていないが、再生エネによる発電量を一気に4割近く減らして「年間260億キロワット時」を目指すとみられている。12年度の年間325億キロワット時(小規模発電を含む)をも下回るレベルだ。

 野党・労働党影の内閣で環境・気候変動・水問題の担当大臣を務める労働党のマーク・バトラー下院議員は「アボット政権の愚かな政策転換で、国際的にクリーンだった豪州のイメージが台無しだ。260億ワット時では話にならない」と語る。

今の日本のエネルギー政策は八方美人でまるで鳩山政権と同じ道を辿りつつあるのとは対照的に賛否は兎も角、一貫性のある様は大変に清々しい。脱原発というなら自然エネルギーなんてものに金を払うわず、火力への全面回帰を宣言し、CCSや資源開発に全力を投じるべきなのではないでしょうか。

ところで、最初の記事にある識者のコメント

 《明日香寿川(あすかじゅせん)・東北大教授(環境政策)の話》 燃料代が安価な石炭火力は企業にとって短期的なメリットはあるが、稼働後数十年は温室効果ガスの高排出が続くことになる。将来、炭素税が課されたり、新たな対策を求められたりすれば、電気代に跳ね返り、日本全体でコストを支払うことになる。米国や中国などが石炭火力の規制を強めているなか、国際社会に向けて、日本は温暖化対策を放棄したというメッセージになる。石炭火力の分は、多くの国民が不安視する原発を使わずとも、天然ガス火力もあるし、省エネや再生エネルギー、電力間の融通でカバーできる。

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